DIARY

パラダイス銀河

#050

最近髪を染めたらしいけれど、前の真っ黒な髪がすごく似合っていたのでなんだか残念だった。しかし僕は今度黒に戻した時に明るい色のこの人を惜しんだりするのだ。どこかで必ず終わることは明らかで、それでも今この瞬間同じ時間を過ごすというのはどいうことなのか。その人の記憶の中で僕は、僕の記憶の中でその人は生き続ける。僕たちは誰かの走馬灯の一ページを飾ることができるかもしれない。鮮やかに焼き付いた一瞬だけが過去から切り取られて、今の僕の生活によって文脈は色付いていく。多分これでいい。さよならだけが人生なのだ。友人でもなく恋人でもない関係をどう呼ぶか「友達以上恋人未満」なんていうけれど、長いしなんだか小っ恥ずかしい。これだと1<x<100かもしれない。2と99を一緒にしてしまうのに無理があるのは明らかだけど、一つ一つに名称をつけていくのはもっと無理がある。男女の関係性にいちいち名をつけたりするのは無粋だと思う、でもそれに頼っている。

少し明るい色の服を着て、縁石の上をゆらゆらしながら歩く。この場所に冬は来ない。秋はこのまま僕らを連れて冬を飛び越え春を追い越して夏の境界線まで、なんてこともないのだけれど、季節を感じるのはやっぱり楽しい。生活がうまくいっている時だけ。お金があっていい家があれば世界は綺麗に見える、確率が上がる。

古い音楽を聴いては”This is real music I was born in the wrong generation”と同居人が相変わらず愚痴をこぼす。古いものは無条件でありがたいものらしい。とんでもない。先端にツタンカーメンがついたエジプト土産のステッキを振り回している。危ないよと何度も言ったのに、数分後もれなくコーヒーを倒して部屋中を小洒落た匂いにしてくれた。

どこかおかしい。みんなどこかおかしい。狂っていることを知っている。言わないだけなのだ。みんなで渡れば怖くない。そういうものではない。