DIARY

パラダイス銀河

#000 何も知らない 

何か勘違いしている。

個人経営の喫茶店。古いジャズが流れている。古い友人と新しい友人。数人で話をした。話をするといつも周りの反応に違和感がある。細部まで専門的に、科学や学際的な知識をもってその上で結局は何もわからない的なことを言っているのだと思っている人がいるらしい。僕は何も知らない。本当に何も知らない。知識の不可能性とか科学も宗教の一種だとかそういうことを言いたいのではなく、本当に何も知らない。

哲学も数学も物理学も知らない。歴史なんてもっと知らない。古典もほとんど読んだことはない。岩波文庫の前で立ち止まったりしない。詳しいことは何も知らない。

僕は何も知らない細部まで学ぶのも面倒くさい時間をかける価値を感じない、怠惰を許す言い訳として、動物的な策略で、それらと逆行する主張に全体重をかけているだけなのだ。科学も解釈に過ぎない数学は何も記述できないなどというのは、ただそれらを知らないことのコンプレックスに対する慰めで、それをこれから学ぶバイタリティのなさを正当化しているだけで、僕は本当に何も知らない。矛盾していること主張するだけの材料を僕は持ち合わせていない。なぜならどちらもよく知らない。学問なんて知らない。

どんな体系も知らない、どんな理論も知らない。何も知らないという場所から動くのが億劫で仕方がないので、結局は何も知ることができないと自分に言い聞かせているだけなのだ。僕は抽象に逃げている。森羅万象を貫く理論があると信じて真っ向から立ち向かう人はかっこいい。それでも僕はやっぱり面倒臭いと思う。多分この世界がどうなってるとかそんなことより、もっと単純な欲に心を囚われているような、もっとだらしない感じなんだと思う。僕は何も知らないし何もできない。行き場を失った欲だけがある。ん、そんなものもないな。そんなもの特にはない。