DIARY

パラダイス銀河

2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

#066

ハードボイルドと呼ぶには甘すぎる形容詞が並んだ文章を眺めているうちに日が沈み始めた。湿った枯葉の上を歩く老人が履くコンバースが妙に目を引いた。誰もいないカフェには、迷いのない和音から始まったメロディーが流れている。時代も場所もわからないと…

#065

壁に並んだ空き瓶を眺めている。確かに僕は今に生きているのにまるで過去を見ているような気持ちでそれらを見ている。まだ過去になっていない現在を、失った優しい生活が目の前にあるかのように見ている。現在の形式が追憶に変わるそのつなぎ目に僕は生きて…

#064

長い時間をかけて穴の形を正確に描き出したからと言って、それは穴を埋めることとはまったく関係がなかったのだ。緻密に解析して小さな凹凸も見逃さずその穴を捉えても、そこに穴があることは変わらず、それを埋められない自分は何も変わっていない。絶望の…

#063

眠ってしまうには惜しい夜を過ごしている。特に何かが起こったと言うわけではない。まだ行ったこともない場所会ったこともない人々を愛おしく思ったりする。酔っ払ってはいない。古い本屋によった。ヘミングウェイの「移動祝祭日」を買った。ロストジェネレ…

#062

マフラーをぐるぐるに巻いた女子高生の影のシルエットがロシアの人形にしか見えなくなってきたところで電車が到着した。黄色い線の内側までおさがりくださいのアナウンスが妙に反響している。都会の駅には飛び込み防止のホームドアが設置されているので黄色…

#061

欲を満たすことが人生の代替物となって憂鬱から僕を遠ざけてくれることを期待してもそれはおとぎ話よりも地に足が付いていないたわごとなのだ。なんとなくぐったりしている精神に具体的な処方箋が効いた試しがない。あらゆる行為は途中で目的を失って、僕は…

#060

裏通りに散らばった水たまりが景色の所々を切り取っている。自動販売機まで傘をささずに歩いたら思いの外濡れてしまった。ダイエットコーラを2本買う。パッケージのデザインがオリジナルよりちょっとだけかっこいい。コーラを死ぬほど飲んでも死なない。コー…