DIARY

パラダイス銀河

#041

I ain't give a fuck anywayと呟いて僕の顔を思いっきり殴った6.4フィートに街で偶然合った。大学一年の冬僕がそいつの彼女と寝たことがバレてアパートまで殴り込みに来た。ドアを開けた瞬間この男が何をしに来たのか一瞬でわかった。弁解などする余地はなくそいつは僕の頰を思いっきり殴る。僕は横腹を蹴り上げて食べさしのカップヌードルを投げつけてそれから思いっきりそいつの鼻をロジックプロの参考書で殴った。叫びながら黒い体が向かってくる。それから僕はもう一発右の頬に食らった。

地球儀がプリントされているコーヒーカップを片手に僕に笑いかけてくる。仕事の調子はどうだとか、僕がまだ履いているスニーカーの話とかをしてくる。そういうことなんだと思った。僕はおとぎ話を思い出しているのだ。

 

今日は写真をとった。かっこいいのを取らないといけないよと編集に言われたのでかっこいいのをいくつかとった。鮮やかな色のスカートと綺麗な顔がほとんどモノクロの街を背景に踊っている。レンズではなく僕の目をみて笑いかけてくるので、レンズを見て欲しいとなんども言った。わかったと言ってにこにこしながら僕の目を見ている。タバコを吸いながら歩いても嫌な顔をされない汚い街に不釣り合いなガラス細工の形をした人間が、足音もなく日雇い労働者とホームレスの間をふわふわ飛ぶように駆け抜けていく。F値を下げていくたび脇役たちの表情は見えなくなって、薄い唇と淡い瞳だけがはっきりとした景色になっていく。カメラを捨てて街をあるく。何もかも忘れている。ガラクタでごった返しになった街で少し前までよく耳にした曲のイントロが聞こえてくる。

 

シャツにプリントされたグラフィック。僕のやつを知らない人が着ている。広告塔には昔ファインダーからみたそのままの景色が張り付いる。僕が切ったり貼ったりしたフィルムが映画館で流れている。僕が録音した音楽がインターネットでゆらゆらしている。ほとんど名前も覚えていないような昔の知り合いに、お前が羨ましいと言われた。かわいそうなやつだなと以前羨ましいと言われた時に言ったらお前は最低だと言われたので今回はお前もよくやってるよ言っておいた。僕は遠くまできたのだ。僕は変わってしまったのだ。記憶の中遠いところにいるあらゆる人が僕を羨ましいという。僕はまだ何も話していない。不思議なものは何一つない。何も吐き出さないものだけを自分のものにしたい。何もかもがあるこの街で、一番美しいものに触れながら煙と音がゆらゆらするほとんど空っぽの部屋で、不可解さに絶望したふりをしてベリーグッドな人生を送る。グッドバイとみんなに手を振ってまた新しいところ。全部が混ざって理解だけがあと残るような瞬間だけに生きる妄想を繰り返す。