DIARY

パラダイス銀河

#026

アムトラックの列車に揺られながら遅すぎるインターネットの中をフラフラとしている。車窓から見える景色はここ2時間ほどずっと変わらない。時たま馬や牛が放牧されているのを見るくらいで、草木もなく砂漠の入り口にも似た殺伐とした風景がずっと続いている。

 

できるだけ色んな世界を見たいというのは単なる焦燥感からであって、積極的な意味はそこにはない。RPGで全てのワールドを把握しないと気が済まないのと同じで、灰色で表示された場所が地図の中にあるのが気に入らないのだ。足を踏めばそれで終わり。その地を踏んだという事実だけでいい。一度見れば、もうこれでこの場所のことは考えずに済むという安堵感、その土地を自分の人生から排除できる。さながら部屋の大掃除を終えた時のような爽やかな気持ちになる。その場所が気に入ったら、仕事でもなんでも見つけて住んでしまえばいい。骨を埋める場所を探している。

地図に突き刺さるピンの数が増えるたび、僕の人生は消去法的に決定していく。あれでもないこれでもないとしているうちに、死は迎えをよこすのだろう。

 

世界の果てに広がるのは、相も変わらずよく知る現実なのだ。観測可能な宇宙の果てにまでたどり着いたとしても同じだろう。僕がその場所に一度立てばその瞬間から非現実は日常へと変わり始め、僕の視野がそれを覆うにつれて退屈な法則で再び満たされていく。無限の広がりのその先にも、ランデブーが始まる都会の街角でも、そこには主観だけがまばらに落とされていて、それぞれの保有する世界だけがある。

 

不条理は僕固有のもので、それは一切の正しさからかけ離れている。

フィンランドでサウナに入る男が水中で見つけたのは研究室で波長計とにらめっこする若い男。丸の内のオフィスでコードを弾き続ける人。タイムズスクエアでスペアリブを売る男が今日あった背の高い男は、パリで額縁を作る人。ロンドンでモデルの写真を撮る人が今日街でぶつかりそうになったのは、九州で麺を打つ人。モントリオールで石を削る人が落とした地下鉄切符を拾ったのは、アフリカでジープに乗る人。

 

地平線を眺めている。大気圏の外でご飯を食べる人。楽器を演奏する人。