DIARY

パラダイス銀河

#075

大きな交差点。信号待ちをする母親の体から乗り出した赤ん坊と目があった。妙な気分になって僕は目をそらした。タバコ。5を3にした。喫茶店でたまに見る女性。ウェリントンの黒縁メガネ。八重歯。

友達。ジャズボーカルをやっている若い男は今時珍しい。僕は彼しか知らない。マスターはからかって、彼を和製チェットベイカーと呼ぶ。そのチェット君は、タバコと酒のせいで合うたびに声が掠れている。セックスと酒とタバコのためにジャズやっていると言った。死に急いでいるというか、この人は長く生きるつもりなんてないのだろうなと感じる。ギンズバーグはこう書いていた。

僕は見た,狂気によって破壊された僕の世代の最良の精神たちを,飢え,苛ら立ち,裸で夜明けの黒人街を腹立たしい一服の薬を求めて,のろのろと歩いてゆくのを。 

 緩やかな自殺とも思える人生と、ガラス細工を触るように大事に扱われた人生と。一度剥がれた意味は街の景色の中へ戻っていき、それぞれに新しく居場所を見つけたようだった。だらしのない中庸、往生際の悪い忠誠。何もかもが初めから間違っていたとしても、僕はあっさり死ぬことはできない。死にたくない。