DIARY

パラダイス銀河

#088

坂道を挟んだ向かい側に大きな煉瓦造りの家がある。夕方になるとピアノの音が聞こえてくる。同じフレーズを繰り返しては、戻ったり、進んだりする音楽に、僕は耳をいつも澄まして聴いている。ソファに寝転んでタバコを吸っていると、音楽が、過ぎ去った風景を連れてきてくれる。煙を追いかけているうちに消えてしまういつかの自分が見てきた情景は、夜が始まる頃にはまた過去になる。愛の夢が、とても美しい旋律で、それは言葉にならないくらい綺麗だった。僕はまだいきている。涙が出てきたがなぜだかわからない。悲しみのイメージの発端は、校庭で見た夕陽でもあり、昨日すれ違った人の笑顔でもあった。