DIARY

パラダイス銀河

#071

動けないでいる。なぜだかわからない。誰かのせいではない。

街を一日中歩いても、例えば道でくたばっているホームレスを見ても、ボロボロの哲学書を開き直してもピクリともしない心を、僕は許している訳ではない。しかし以前まで瞼をひらけばたちまちやって来た重さや苦しさは、僕にとっての生きがいだったのだと今では思う。考えることができなくなってしまったのか、何を考えればいいのかわからなくなってしまったのか、何かを重要視したり、深刻になったりすることは、この先死ぬまでほとんど不可能のようにも思える。苦しめない苦しみだけがある。鮮やかに色を変える日没の空も、それは美しさという形で僕を落ち着かなくさせていたのに、今では何も感じないというところで僕の中の何かが死んだことだけを伝えている。

深刻に生きることは幸せなことなのだ。何かに捉われたい。生活を明るい誤解で満たすべきで、正しさを離れることの不誠実にかこつけて何もできないと御託を並べていた日々の精算をさせられているのだろうか。そんなことはない。何かに心を悩まされたいという悩みは青年的な一過性のものではない。僕は今言い切る。僕は地に足がついている。

お酒を飲んで楽しくなった夢を見た。働いたこともない僕にはわからないはずの誰かと楽しくワイワイやる夢を見た。そこそこ可愛い女の人、そこそこ気が許せる友人、そこそこ美味しい食事が出てきた。世界の不条理も、存在意義の絶望も、身を貫くような美しさもどこかへ消えてしまったこの生活で、僕は何を始める。死ぬにはまだ何かをしてないような気がする。やりがいなど何かをはじめてから湧いて出て来るのだとどこかのバカが言っていた。僕は阿保にならなければいけない、楽しい人間にならなければいけない。僕が毛嫌いして来た何も知らない気の触れた醜い人間になりたい。これ以上の憧れはない。