DIARY

パラダイス銀河

#069

カタカナの多い話。

あいも変わらず喫茶店にいく。3ドルコーヒーといっぱいのおかわり無料。右斜め前に座った小太りの若者、おそらく20代半ばの男にニーハオと声をかけられる。僕は中国人じゃないし中国人に間違えられるのがとんでもなく嫌いだと言ってそれからFワードを付け加えた。彼は謝って、すまないそれしかアジアの挨拶の言葉を知らないという。「アジアの言葉」ね、なるほどと思った。とりあえずアジア人を見つけたらニーハオと声をかけるのは下手したら侮辱になるからやめといた方がいいよと笑顔で伝えた。ごめんごめんと言いながら距離を詰めて来る。レイバンのボストン型のメガネ。最近よく見る高級なブーツ。

何から話したかわからない。サンフランシスコ出身らしい。それからユダヤ人だと言う。かなり厳しいユダヤの家系らしい。ドイツはいい国だよね、いい車も作るしビールもうまいというと一瞬変な間が空いたのはそのせいなのかなと思った。僕は東京からきたといった。実際は兵庫県出身だけど極東のマイナーな県をこんな田舎に知ってるやつなんていないだろうからいつもフロムトーキョーということにしている。近くの大学4年で政治学を専攻しているらしい。少し前に見たウォール街の映画に出てきた役者に似ているなーと思って調べたらジョナヒルという名前の俳優だった。そっくり。ただ背が高い。6フィートはある。かかとの高いブーツがさらに高くしている。僕だって同じぐらい背が高い。2杯目は無料のコーヒーをカウンターまで受け取りに行って、席に戻った時には彼はラップトップをいじっていた。席に着くとおもむろに、これからイスラエルにいくんだと話し始めた。中東の戦況を実地で学びにいくらしい。以前イスラエルのバーであった可愛い女の子に声をかけると、明日からシリアに行くからデートは無理だと断られたという話をした。とんでもない。来年からはハーバードのロースクールにいくという。なんだか納得だった。後から聞けば両親ともにアイビーリーガーだそうで、父親はグーグル相手に女性社員達が起こした市民権利訴訟のトップを担う弁護士らしい。実家があるサンフランシスコではスタジオアパートほどの大きさで月3000ドルだという。高すぎる。ボンボンだ。先月メルセデスを交差点の真ん中で大破させたらしい。4万ドルを相手に払って、70マイルで一般道を走ったことに対してのペナルティのお金も合わせると5万ドル近く飛んだらしい。当たり前だ。

戦争と国際情勢をあつく語ってくる。いろんな言葉を使うなーと思った。ものをよく知っているらしい。神学者のラインホルドニーバーを引っ張ってきたと思うと、オリエンタリズムのサイード、ファノン、それからセザールにまで至った。ポストコロニアルリズムをこれだけ熱く支持するのは彼がサンフランシスコ出身でユダヤ人だということと何か関係しているのかなんて考えているうちに、今度はポスト構造主義に移った。フーコーはゲイだということ、デリダは嫌いだということ、カミュがヒーローだということ。ここには僕も大いに賛同した。中学も終わるころ僕はカミュのシーシュポスの神話をページがボロボロになって抜け落ちるまで読んだ記憶がある。昔古本屋で見つけたカミュの日記帳の最初のページに、「美しい地中海を見ている時ほど私が存在の不可解さを鮮明に感じている時はない」という一文があったことを思い出した。コーヒーをもういっぱい頼みに行く。カウンターには違う店員がいて、洒落た帽子を被っていたのでいい帽子だねと行った。誕生日に友人にもらったらしい。誕生日はいつと聞くと9月28日だという、僕と父親と同じだよというとすごく嬉しそうな顔をしてほんとかよと言う。本当は父は9月26日生まれだけどまあ細かいことはいいでしょう。座っていたカウチに戻ると、今度は彼がアップル製品について話し始めた。一番新しい機種が1000ドル以上すること、それがラップトップと同じ値段だと言うこと、アップルはオウム真理教に近いなどとわけのわからないことを言っていた。オウム真理教をなんで知っているんだと聞いたけど有名な話だよと言われて終わった。ちなみに僕は麻原彰晃が捕まった日に生まれたんだ。父親は愛車のシトロエンのラジオから流れる麻原彰晃逮捕のニュースと僕が生まれたことを知らせる病院からのニュースを同時に聞いたらしい。と言う話もした。あとはなんだ。日本にも来るらしい。東京と北海道、大阪、それから福島にも行きたいらしい。防護服と150ドルのガスマスクも注文したらしい。店に入って来る女の子全員を全身舐め回すように見ているのでそういうのはあからさますぎるからやめたほうがいいかもしれないよというと全く聞いてなかったようで、そんなに可愛くないなーなんて言っている。キリンビールが好きらしい。海沿いの街まで行くと普通に手に入るそうだ。ロシアに行きたいという話、尖閣諸島の話、安倍首相、ドナルドトランプ、バーニーサンダース、金持ちの知り合いの娘がとんでもなく嫌な奴だという話、そんなものかな。途中からそいつの友達のサウジアラビア人がやってきてこれまた背が高い。メガネの度が強すぎてレンズの奥側だけ顔の輪郭が大きくへこんでいるように見える。建築専攻。アートの要素をもっと入れたいらしい。大きいウィンドウズのPCと喫茶店に持って来るにはデカすぎる電源プラグをぶら下げてコンセントを探している。

 

書くの疲れたのでここまで。読み直すのも面倒なのでこのままで。乱文