DIARY

パラダイス銀河

#021

誰かが「あなたは結局何がやりたいの」なんて聞くから僕はつい口を滑らせて、思っていることをちょっとだけ話してしまった。みんなの表情がみるみる変わっていくのを確認して、本当に思っていることなんて人に話すものじゃない、同じ轍は2度とは踏むまいと固く誓った。

 

今日と同じようなことを口を滑らせて話してしまったことが過去にもある。正月に親戚の集まりで料亭に来ていた僕は、大きなフグの身をたっぷりの梅肉につけながら、思っていることをなんとなく話した。

「お前が若いからだというつもりはないけれど、そんな甘い観念論と浪漫的な形而上学で全てを腑に落とせるほど現実は優しくない場合がある。」その時はバッサリと叔父に言われてしまった。歯に衣着せぬ物言いもいいところだ、大人気ないななんて多分僕は思っていただろう。しかし坊主頭で幅の大きな二重まぶた、身長も180はゆうに超える日本人離れした見た目の叔父には威圧感があって、突っ掛かれば間違いなく反撃を食らうだろうという感じだったので僕は歯向かうこともなく、黙ってフグを食べ続けた。まだ高校1年生だった僕は何か言い返したかったはずだろうけれど、何かしたという記憶はない。

 

「涙とともにパンを食べたものでなければ人生の味はわからない」などといかにも狙いにいった言葉を残したゲーテの顔、よく見るあの肖像画が頭に浮かぶ。涙とともにフグを食べても人生の味なんてわからない。本心はやっぱり隠し通すべきなんだということだけは、16の僕でもわかっていた。もちろん、これがありがちな保身術なのだということは言うまでもない。