DIARY

パラダイス銀河

「特別なことなどいらない」と原色をふんだんに使った何を宣伝しているのか定かではない広告がカクカクとしたフォントで訴えている。何が特別で何が特別でないかは、慣れ親しんだ時間に比例している。最初に触れた瞬間はあらゆるものが特別だったろうに。ぼーっと考えていると電車は通り過ぎている。えらく侵入速度が早いと思ったが、この駅を通過する車両だった。

 「こんなことなら生まれてこなければよかった。両親はなぜ僕を生んだんだ。」空っぽになったコーヒーカップの縁を人差し指でなぞりながら言った。「君のご両親だって『君』を産みたかったわけじゃないさ。」口に出すつもりではなかった言葉がついこぼれてしまった。必要なことは何もかもに正直になってしまうことだと、いつか見たアメリカ映画の主人公が言っていた。