DIARY

パラダイス銀河

新宿駅

地下鉄丸ノ内線。空洞が続いている。新宿駅で降りるのはいつも億劫で、満員電車で油の浮いた皮膚のでこぼこを見るのもデタラメな歩幅で溢れかえる駅構内も、どちらも嫌になる。意味もなくぶらぶらして、人混みに紛れて寂しさを紛らわそうとしてもうまくいかない。皆が孤独だと偉い人が言った。多分そんなことはない。利口な人間は孤独だ。孤独な人間は利口だ。僕は孤独だ。僕は利口だ。という風にしたいらしい。自分の孤独だけが正しいと思っていたいつかの僕が見ていた新宿駅は何も変わらないのに、そのころの気持ちはほとんど思い出せない。若い悩みだと言われることに一番腹が立っていたその頃の悩みは皮肉にも、ほんとうに若さとともにいつの間にか消えていき、ついには駅の入れ替わりの激しいテナントと同じように、僕の脳みそからあっさりと身を引いてしまった。少しだけ楽しくない方が、少しだけ生きやすい。世界の空っぽさを嘆いて絶望して、そしてその段階で死ぬことに失敗した人間に残された進化は、ただ自らも抜け殻になることだけらしい。

 知らない誰かの表情が、視線の真横で加速していく。体を無理やり改札出口へと連れていく人の流れを掻き分けながら、逆方向のホームへと向かう。ゴミ箱が見当たらず捨てられないままの空瓶の重さが鬱陶しい。一つだけ巻き戻り、新宿三丁目の駅で降りた。人はまだ多い。濡れた階段が通りへと続いている。雨を御構い無しに階段を登っていく女子高生。僕はビニール傘を解いた。けれどスエード生地のジャケットは水浸しで、肩のあたりはすっかり色が濃くなっている。僕も御構い無しになって、コンビニの傘立てに傘を置いたまま雨の中を歩き始めた。路地裏を、路地の地面だけを見ながら歩く。誰ともぶつかったりはしない。大通りに出てすぐ左に曲がると、よく来る喫茶店が見えて来る。この街では、一日は終わったり始まったりを繰り返さない。