DIARY

パラダイス銀河

#074

夜に閉め忘れたカーテン。窓から差し込む光はぼんやりとしていて、朝はすでに終わっていた。もう少しで届きそうな携帯電話に手を伸ばしたけれど届かなくて、手前に積んである本の一番上をとってパラパラとめくった。馴染みのない固有名詞がそこには並び、とても高い山に登ったことについて書かれた章の終わりの方で、いつか挟んだしおりが顔に落ちてきた。”暑さは慎重に私を殺し、寒さは早足で私を殺そうとした”とある。ぶよぶよした肉の塊が山の斜面の統一を乱す風景。天井の模様に焦点が合う。コンタクトレンズを外し忘れていた。

「どうしたって君は幸せになれない。私が保証しよう」アスレチックに登って遊んでいた、まだ小さな体の僕を見上げて男はそういう。「どうせ死ぬんだ、私が保証しよう。」今度は図書館の窓際の席で、方程式を見つめていた僕に話しかけてきた。交差点、ゲームセンター、陸上競技場のトラック。どうせ終わってしまうのだ、もう終わりにしようと 繰り返した。

 カーソルの点滅は僕の視線に気付いたのかゆっくりとなっていき、リズムは終わりついには点滅をやめて、消えてしまった。せいぜい死ぬまでの時間潰しだと言い聞かせてから腰を上げても、楽しいはずの時間つぶしは人生の代わりになってはくれない。から騒ぎまでの確かな文脈。ただ楽になりたいだけの僕。種類の違う不可能だけが交差している。