DIARY

パラダイス銀河

#073

下北沢のマクドナルド。仕事でたまに会うバンドマンがテーブル席に一人で座っていた。こんにちはと言うとハッとした表情でこちらを見て笑った。雰囲気でやりたくないのに雰囲気で音楽をやってしまうと言うようなことを1時間ぐらい繰り返し言っていた。言葉におこしたあと、逃した部分全てが本当に言葉にしたかったことなんだと思うと死にそうになると言う。

話を聞いて、フォトグラムの写真を思い出した。印画紙に直接モノを置いて感光させることで、モノのシルエットが完成時に浮かび上がってくる。シルエットは真っ白で、それ以外は真っ黒。以前現像作業中、赤い光で満ちた暗室の中で小さな紙の上に潔く浮かび上がってくる白い形を見て、言葉はこの黒色のようにネガティブを満たして白を浮かび上がらせたりすることはできず黒を構成するその破片だけになるだけで、結局何も証明できないと思ったりした。光は印画紙に置いたモノ以外にしか当たらない。つまり何も置かれていない空間は感光オーバーで真っ黒になる。その黒は結果的にシルエットを生むことになる。

口から出てくるデタラメな台詞は、自分が本当に言いたいことはこれではないということを思い知らせるだけの拷問器具のようで、それが真っ白な心象を描きだすことは永劫なく、ただ不可能という実感だけ空虚な音になって空間をさまっている。僕は誰も知ることができないし、誰も僕を知らないでいる。世界について何も知らないし何も知ることはできない。何も知ることはできないと言い切ることもほんとうはできない。あらゆる肯定は宗教になった。

まずいビッグマックを食べ終える。バンドマンはとっくに帰っていた。