DIARY

パラダイス銀河

#047

プラトニックなんてクソ食らえと朝の四時に叫びながらベッドに飛び込んだ。安いスプリングが軋む音が同情の悲鳴に聞こえる。僕はちゃんと話を聞いていた。日付が変わるちょうどその頃にノックもせずズカズカと入ってきた。

恋こそは他のいかなる世俗のものにもまして最も善いものだって言うでしょ。僕は愛されたいのであって愛の経験が欲しいわけではない。酔っているのはわかるのだけれどなかなか雄弁に語っている。プラトンから引用したり、はたまたバタイユのエロティシズムを引っ張ってきては恋愛哲学をいよいよ日が昇る時間まで講じている。古いアパートの一室で、21世紀のパイドロスが僕を説き伏せようとしている。僕はおかしくなってなんども吹き出しそうになったけれど、水を飲んだり咳き込んだりしてごまかした。

ようするにはフラれたらしい。竹内まりやの歌の中で「彼だけが男じゃないことに気付いて〜」みたいな詩があったようななかったような、彼女だけが女じゃないことに気付いてとなんども言おうとしたけれどやめた。存在なんてまやかしだ生きることは浪費だと常日頃言っている彼が失恋に頭を抱えている。誰かに恋をしている時間はこの世の意味だとか存在の不条理だとかはすっかり消えていくのだろうか。荒涼として灰色だった生活の景色の隅々まで、日常のあらゆるシーンを恋人は鮮やかに塗り替えてしまったらしい。笑いながら彼の日常に原色のペンキを塗りたくる名前も知らない女の人が頭に浮かぶ。

ここが天国だったらどうするの。ここは天国になりうる。ずいぶん前に僕に言った人がいる。何かを信じることが知性に対して誠実になることと逆行していると考えているならあなたはまだ何かを知っているつもりになっているのだと思う。まっすぐこっちの目を見てそう言った彼女はどうしてるのだろうか。未だ生活に意味は感じられない。何もわからず、確かな何かに触れている錯覚を起こす装置とともに僕は生まれた。どんどん精密になった気になって、現実を平らに、生活を平凡にする。一番大きな納得を教えてくれるものが本当のことに一番近いわけではない、僕は好きなように何かを信じることができるのだろうか。解釈に正しさのエキスは含まれていない。しかし目の前に広がる景色はどこまでも不可解なのだ。やはり全てを忘れて、理解を諦め、ありのままをうつす。バカになっているのではない。僕は、変わろうとしている。意味を一度全て崩して、何もないことに絶望して、意味を再び取り戻したり作ったりするのは不誠実でどこまでも愚かだと思っていた。今でも思っている。そんな人間的に論理的なレンズも、この病んだ世界も、一度大恋愛を処方されると全く違う様子になるらしい。どうしたって僕はキリンより小さいし、高層ビルより小さいし、宇宙より小さい。しかし何にでもなれる。それらを好きなように理解することができる、理解したと言ってのけて新しい生活を始めることができる。そう言う意味じゃないけど、

恋は盲目。恋は盲目。