DIARY

パラダイス銀河

#029

力が加わってこないのは、未練がないからだと思っているけど僕は、食事をして喜んだり、クーラーの効いたショッピングモールに入るたび緩んだりしている。黙っている。

 

 

アルコール。たまにいく店に入る。坂口安吾を読んでいる人がいる。キャスターを吸っている。バニラの香り。

 

街へ二人で繰り出す。コンビニでいちごオーレと日本酒を買って、歩きながら飲んだ。

雨で東京は濡れて、僕のシャツも濡れて、紙パックはもっと濡れた。

 

夜が更ける。交差点のオブジェに座って、これ以上僕たちを濡らさない雨の中で二人で話した。手首に傷があった。「これはポップな自傷行為なんだよ」と言う。首にあざがあるのが見えた。ヒュームが好きだと言う話が終わる頃に、スナック菓子を地面に置いたまま、坂の方へと向かった。

 

ウッディアレンの映画は音楽がいいねと言う話をした。パリに行きたいと言って、それから東海岸にも行きたいと言う。

 

うまく歩けなくなって、おんぶすると、重い。痩せて見えるのに重いのは位置が悪いからか、濡れた服のせいかはわからない。ずっと前に閉店した中華料理屋のテラス席で抱きしめられたけど、生きることに波が出たり、厚さを感じたり、奥行きが出たりはしなかった。

2度と見ることはないだろう横顔だけ、僕は思い出している。夜行バスの中で昨日の出来事をゆっくり辿っているうちに、形は、それは最初と最後でその人をくくっているだけなのだとか、考えていた。

 

グッドバイではなくて、僕はずっと繋ぎ止めておきたかったのだと時間が経って気付いても酔いはとっくに冷めて、地面は乾き始めて、匂いも感触も、時間軸からは剥がれていく。

 

一人になって、思い出して同じタバコをかった。バニラの香り。