全体の把握への強迫観念めいた要求が、ずっと昔からあったように思う。例えば大きな都市に住むことになればその袋小路の一つ一つ、裏通り、抜け道、大通りを埋め尽くすビル、通りを歩く人の傾向、それから都市計画の過去50年ほどの資料なんてものまで自分の…
目が覚めて誰もいない。ボサノバアレンジの耳障りなJPOPが部屋に響いている。天井が妙に高い。起きたら誰もいない方がいいなと思いながら夢を見ていた気がする。なりっぱなしのブラウン管。毛布が湿っている。シャワーを浴びようとするけれど、無意味に広い…
地下鉄丸ノ内線。空洞が続いている。新宿駅で降りるのはいつも億劫で、満員電車で油の浮いた皮膚のでこぼこを見るのもデタラメな歩幅で溢れかえる駅構内も、どちらも嫌になる。意味もなくぶらぶらして、人混みに紛れて寂しさを紛らわそうとしてもうまくいか…
”人間理性の無力を口実にして、理性の問題をいわば回避するようなことをしなかった” 広義で表面的なもの。混乱。職業、生活、家の大きさ、土地、歴史、カーペットのブランド、香水の種類、あらゆるテクノロジーのメカニズム。電子レンジ、浮遊するLED、反応…
大きな交差点。信号待ちをする母親の体から乗り出した赤ん坊と目があった。妙な気分になって僕は目をそらした。タバコ。5を3にした。喫茶店でたまに見る女性。ウェリントンの黒縁メガネ。八重歯。 友達。ジャズボーカルをやっている若い男は今時珍しい。僕…
夜に閉め忘れたカーテン。窓から差し込む光はぼんやりとしていて、朝はすでに終わっていた。もう少しで届きそうな携帯電話に手を伸ばしたけれど届かなくて、手前に積んである本の一番上をとってパラパラとめくった。馴染みのない固有名詞がそこには並び、と…
「岩波岩波岩波〜」そう叫びながら本屋で無限の広がりを見せるコミック・雑誌コーナーを走り抜けていった少女の残り香が僕のコートを翻した。軽い足取りが嘘のように、岩波文庫の棚を見上げた少女の顔は固まったように表情を失って、それから一冊を手に取ろ…
下北沢のマクドナルド。仕事でたまに会うバンドマンがテーブル席に一人で座っていた。こんにちはと言うとハッとした表情でこちらを見て笑った。雰囲気でやりたくないのに雰囲気で音楽をやってしまうと言うようなことを1時間ぐらい繰り返し言っていた。言葉…
芸術大学の学生が開く個展、それから若い芸術家、ベテラン芸術家のギャラリーなどをここ2週間ぐらいで回った。若い世代が作った作品は、世界の、とりわけ人間の活動に対してシニカルで批判的な表現をしているものが多い。インストレーションでは意味が散ら…
動けないでいる。なぜだかわからない。誰かのせいではない。 街を一日中歩いても、例えば道でくたばっているホームレスを見ても、ボロボロの哲学書を開き直してもピクリともしない心を、僕は許している訳ではない。しかし以前まで瞼をひらけばたちまちやって…
昔読んだ本の冒頭で、大切なことは二つだけだという一文があった。それはきれいな女の子相手の恋愛、それからある種の音楽だ。他のものは消えていい。なぜなら醜いからだという。 破壊に至る過程こそコインの表裏のように快楽に面している。それは些細な衝動…
カタカナの多い話。 あいも変わらず喫茶店にいく。3ドルコーヒーといっぱいのおかわり無料。右斜め前に座った小太りの若者、おそらく20代半ばの男にニーハオと声をかけられる。僕は中国人じゃないし中国人に間違えられるのがとんでもなく嫌いだと言ってそれ…
ヘッドフォン。音量をあげると、自分の体の音が聞こえなくなる。足が地面につく音、骨が軋む音、服がこすれる音。うるさい音と視点だけ。 書くことが本当に出てこない。でも寂しさを紛らわしたい。 夕方。午後4時以降から7時くらいまでの時間は街が一番綺麗…
喫茶店でクリスマスセールのチラシを広げているおじさんがなんとなく目に入ってチラッと横目で見ると広告の裏側にアサルトライフルらしきものが聖夜に半額で売り出されることが書いてあって思わず吹き出しそうになった。シニカルな組み合わせもここまでくる…
ハードボイルドと呼ぶには甘すぎる形容詞が並んだ文章を眺めているうちに日が沈み始めた。湿った枯葉の上を歩く老人が履くコンバースが妙に目を引いた。誰もいないカフェには、迷いのない和音から始まったメロディーが流れている。時代も場所もわからないと…
壁に並んだ空き瓶を眺めている。確かに僕は今に生きているのにまるで過去を見ているような気持ちでそれらを見ている。まだ過去になっていない現在を、失った優しい生活が目の前にあるかのように見ている。現在の形式が追憶に変わるそのつなぎ目に僕は生きて…
長い時間をかけて穴の形を正確に描き出したからと言って、それは穴を埋めることとはまったく関係がなかったのだ。緻密に解析して小さな凹凸も見逃さずその穴を捉えても、そこに穴があることは変わらず、それを埋められない自分は何も変わっていない。絶望の…
眠ってしまうには惜しい夜を過ごしている。特に何かが起こったと言うわけではない。まだ行ったこともない場所会ったこともない人々を愛おしく思ったりする。酔っ払ってはいない。古い本屋によった。ヘミングウェイの「移動祝祭日」を買った。ロストジェネレ…
マフラーをぐるぐるに巻いた女子高生の影のシルエットがロシアの人形にしか見えなくなってきたところで電車が到着した。黄色い線の内側までおさがりくださいのアナウンスが妙に反響している。都会の駅には飛び込み防止のホームドアが設置されているので黄色…
欲を満たすことが人生の代替物となって憂鬱から僕を遠ざけてくれることを期待してもそれはおとぎ話よりも地に足が付いていないたわごとなのだ。なんとなくぐったりしている精神に具体的な処方箋が効いた試しがない。あらゆる行為は途中で目的を失って、僕は…
裏通りに散らばった水たまりが景色の所々を切り取っている。自動販売機まで傘をささずに歩いたら思いの外濡れてしまった。ダイエットコーラを2本買う。パッケージのデザインがオリジナルよりちょっとだけかっこいい。コーラを死ぬほど飲んでも死なない。コー…
僕は人生を無だと信じることはできない。美とランダム。
自殺の森で生まれた老人。曇った目をしている。 コメント欄に、イタリアより愛を込めてと書いてあった。 自殺の名所なるところで未だに自殺する人がいるのは、やはり寂しさからではないか。生者の僕たちは不気味に思うけれど、自殺をこれからしようとする人…
ドラッグはやらない。でもやっている人をたくさん見る。 みんな生きるのが辛い。当たりまえのように辛い。みんな辛い。だからみんな頑張らなくてもいい。幸せなことは味わおうと思った瞬間には消えている。臓器に絡みつくような苦しみだけが後に残る。恍惚な…
すごい大きさでイヤホンから音楽が流れているのに、聞こえてこないのは他のことを考えていたから。いいや、コンピューターの角を見つめたまま何も考えていない。 僕は、根本的な部分で何もしないこと、ただ絶望して朽ち果てていくことだけが正しい、その受け…
マイアミに行った友達が悪魔にあったと言う。大丈夫何もかもうまくいくと繰り返し諭されたらしい。 軽快な足取りで坂を下りていく。雨が止んで、真っ赤な傘は差さずに済んだ。誕生日にいつも行くケーキ屋さんが開店の準備をしている。トランペットのメロディ…
かっこいい出だしの言葉を昨日の夜思いついていた気がするのに全然思い出せない。 今の状況やら考えていることをだいたい一括りにしてくれるしてるような簡潔なセンテンスは、現状をさくさくっと整理して、僕を次の段階へ優しく流してくれたりする。 アジア…
難しいことはない。生きてみる。顔を洗う。メガネが曇る。 ブラインダーを引っ張り上げると昼の真っ白い日差しが部屋に差し込む。パジャマのままコーヒーを淹れる。袖にちょっとつく。洗濯しないと。ソファーに座るけど冷たかったので立って飲む。貰い物の観…
マリリンモンローのほくろとちょうど同じ位置にニキビができたけど一つも嬉しくない。僕は男だ。チャーミングもへったくれもない。生活リズムが逆転し始めたので色々考え始めることができるかもしれないと少しだけ期待している。 冷蔵庫の中身が空っぽになっ…
いつもてきとうにぶちまけているこのブログだけれど、アクセスログが0ではないからある程度モチベーションを保つことができる。と言うわけでいつも来て頂いているみなさんありがとうございます。いやほんとに。 僕も結構みんなの記事読んでます。寂しさを紛…